代表挨拶

こおりやま子ども若者ネット設立の想い


~ないものをつくる実践~

私自身、2000年代初頭から不登校の子どもの居場所づくり・若者の就労支援・生活保護世帯の放課後サポート等、子ども若者に関する実践に携わってきました。思い返せば、この間に両手10を超える事業や団体の立ち上げ等に関わってきました。この数は、実践の中で出会う子どもや若者から「必要だけれど地域に“ない”ものがある」ことを教えられ、自分の出来る範囲で仲間と共に「“ない”を“ある”に変えることが求められた」ということの現れだと思います。子ども若者の社会的包摂に関する領域において、それほどまでに「“ない”ものだらけ」ということが私自身の実践から感じたことでした。


~地域包摂を目指して~

事業や団体設立は、前述したように子ども若者のニーズから生まれたものがほとんどでしたが、ある一つの事業について、私は、葛藤を抱えての立ち上げに直面したことがあります。それは前職のプロジェクトで、その団体が新しい地域で行政の委託事業を実施するものでした。葛藤の理由は2つあります。一つは、それまで団体がその地域に関わりを持っていなかったこと(地域のネットワークを有していない状態)、もう一つは行政からの委託事業でかつモデル事業であることでした。これらによって、若者たちは一つの団体のみを頼った場合、その事業が終了すると支援を受けられなくなる危惧が生じます。その事業を頼ってきた若者たち(若者対象の事業でしたので)が継続的に支えられる仕組みがないと感じていました。若者たちを支えるには、地域の多様な主体が活躍することが大事だと経験的に感じていました。2008年のことですが、認定NPO法人キャリア・デザイナーズの深谷曻さんも、同じような危惧を持っていたことを後日知りました。その後、深谷さんと話し合いの場をもって、団体を越えて地域で若者たちを支える実践を作っていくことを約束したと記憶しています。当時から、子ども若者を支えるのは一つの団体ではなく、地域の様々な主体(地域の人々や地元企業など)だという認識が深谷さんと共有されていたことが2018年の「こおりやま子ども若者ネット」設立に繋がっていると思います。


~理念を共有するネットワーク~

地域包摂の確認から10年が経ち、当時ふらふらしていた私を深谷さんが訪ねてきて、「子ども若者の社会的包摂には、やはり一団体だけで懸命に取り組んでも解決しない。地域の団体や個人が繋がって社会問題を解決するネットワークを作りたいけれど、一緒にやりませんか?」という話をいただきました。深谷さんと私は、形だけのネットワークではなく、子ども若者の社会的包摂を実現できるネットワークを目指したいと話し合いました。そして、それはその後の議論を経て「子ども若者に関わる社会的排除の解決」という文章として、ネットワークの目的に記されました。また、上記の目的を達成するためには様々な分野に関わる人々が協同することが必要だとの確信がありました。しかし、それは簡単ではないことも知っていました。知人の中に過去に同種のネットワークづくりに取り組まれた方がいたからです。その方は「ネットワークづくりは難しい。それは各主体には熱い思いがあって、それは良いことだけど、それによって主体同士が対立したり批判し合ったりすることになり、ネットワークが築きづらい。」とおっしゃっていました。私も同じ分野で活動している身として、そのような実感がありました。私自身も拘りはもちろんあって、若い時は所属する団体内の職員同士で大喧嘩することもしばしばあったのです。そこで、発起人の方々と議論をし、自分たちが立ち返ったり起点になる理念を作ったりすることで対立を乗り越える工夫をしようということになりました。そのような議論を経て、9つの個人団体の仲間と「こおりやま子ども若者ネット」を2008年11月に設立しました。


~こおりやま子ども若者ネットの理念と目的として掲げられたこと~


私達は下記の理念を掲げました。

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◇私たちは子ども若者を全面的に認め、今ある状況の理解に努めます。

◇私たちは子ども若者の意思と主体を何よりも尊重し、子ども若者に対して自己責任論や適応主義を押し付けません。

◇私たちは、様々な背景のある子ども若者の実状と実践を広く社会にその声を届け、どのような背景の子ども若者も支えられる社会の構築に努めます。

◇私たちは、立場や所属を超えて子ども若者の最善の利益を実現するための地域づくりに

取り組みます。

また、ネットワークの目的の一文に、

「私たちは、子ども若者を支援や育む対象として捉えるだけではなく、この地域社会の構成員として、彼らの『参加』を共に実現する仲間として協同していくことを大切にしています。」ともあります。

子ども若者の活動をしていると、いわゆる自己責任論や適応主義をよく目にします。子どもや若者の意思や背景を踏まえずに適応を迫ったり、本人や家族のみに責任を求めたりする支援です。また、子ども若者を「弱い存在」「かわいそうな存在」として、支援の対象に押しとどめてしまうような支援の姿勢にも出会うこともあります。私たちは前記の姿勢を是とはせずに、子ども若者の意思を尊重すること、子ども若者を対象化せずに子ども若者と共につくること、そして、そのような想いと行動を地域社会として共有していくことを最大の価値とし、ネットワークの理念としました。


~これからミクロとマクロをつなぐ~

先日、貧困とひきこもりに関する本を読みました。低階層(本の表現のまま)の「ひきこもり」の方が制度からも実践からも排除されてきた経緯が書いてありました。読んだ後、私自身、非常に落ち込みました。私は、2000年初頭から学校現場でもフリースクールでも、その後の若者支援の実践現場でも、前記の本に書かれている低階層の方と出会い、その都度、必要な事業やプロジェクトを手掛けてきました。しかし、本を読みながら振り返ってみると、どの実践も社会化できていなかったと痛感します。言い換えれば、実践現場で発見した問題が社会化されてこなかったとの反省になります。当時の自分たちの状況は、現場で活動するのに精一杯で、問題を社会に発信し、実践を広げ、社会化する余裕も力もなかったと、言い訳がましいことを言うほかないです。

 実践現場には子ども若者の願いや活動の答えがある、と私は確信しています。もちろん実践に繋がらない子ども若者の願いも忘れてはならないことは言うまでもありませんし、そのような場に実践が及ぶことにも注力すべきでしょう。今後、実践と子ども若者の願いを起点に、それを実際にしていくための活動を支え合い、協同によって社会化することが私たちの使命だと感じ、この取り組みを進めていこうと考えています。


~33の仲間たちと共に~

現在(2022年6月1日時点)、33の個人団体が「こおりやま子ども若者ネット」に加盟しています。活動テーマも不登校支援やひきこもり支援、就労支援、性教育、居場所活動や子ども食堂等、多様な領域の方々に参加していただいていると共に、その立場も支援者や不登校やひきこもり当事者、その保護者、市議会議員など様々な方の参加があります。このことは、実践していく上で好ましい状況だと感じています。多様で、様々な視点をもった仲間たちと、時にはぶつかり合うような議論をし、また了解可能な行為をみつけ、目的に定めた地域づくりを実現したいと考えています。



2022年6月1日

こおりやま子ども若者ネット

代表 鈴木 綾